日本画家
若佐慎一さん インタビュー

二人目のOBインタビューは画家として活躍されている若佐慎一さんです。若佐さんは日本古来の文化を現代のサブカルチャーと交えて描いていらっしゃいます。今回はそのスタイルに行き着くまでの過程を学生時代をを振り返ってもらいながらお聞きしました。

間 岩絵具 雲肌麻紙 銀箔 116.7 x 91 cm 2005年

岩絵具 雲肌麻紙 銀箔
116.7 x 91 cm
2005年

学部生時代に制作した作品と、それを作ってみての感想を教えてください。

聳える 岩絵具 雲肌麻紙 181.8 x 227.3 cm 2008年
聳える
岩絵具 雲肌麻紙
181.8 x 227.3 cm
2008年

この作品は学部2年生時の作品なのですが、入学当初はどの様な作品を造るべきか、日本画の画材の扱いにくいことなどで、悩みや迷いといった感覚しか記憶に無い時代で、その模索してる中、初めて何とか形になった作品だと記憶しています。
この作品が1つのきっかけとなり、それ以降の作品の方向性が決まりました。
もちろん問題は色々とありましたが、1つのはっきりとした方向が決まった事での喜びは大きくありました。

当時の卒業制作に対する思いや取り組み方はどうでしたか。

卒業制作に関しては、当時まだ自身の作品の方向性について悩み続けていた時期でした。しかし、絵を描かない訳にはいかないので、その当時思い付く自分が好きな景色を描く事だけに集中して制作した作品です。
「近代社会が産み出した産業によって人間は〜」の様な特に深い意味はなく、景色と対峙した際のただただ自身が感じる言葉にならない高揚感を描いた作品です。
情緒的感性に特化した作品制作で、買い上げ(首席)として評価された事は、大学院進学後の学生生活を送る上で大きな自信となりました。

若佐さんの作品は卒業時と新人賞を受賞した時とで作風が変化しているように思えるのですが、卒業から受賞するまでの期間に考えたことや作風の変化、その変化に至るきっかけはなんだったのでしょうか。

作風が変化した理由は、学部と大学院を合わせ9年間の大学生活も最後の年になり、学部2年生時に描いた作品以来の情緒的感性だけに頼った自身の制作スタイルに疑問を持っていた事が大きな要因でした。
私が自分の絵に足りないと考えていた大きな要素の1つが作品の持つ意味性でした。
絵を通してどの様に社会と関わるのか、作品で自分が何を訴えたいのかといった主張が欠けていました。
それを構築する為には、一回ゼロベースで全てを再構築する必要があると考え、大きくシフトチェンジし、新たな方向へとチャレンジするという選択をしました。
そうして取り組んだ1枚目に描いた作品が賞を頂くことが出来、その後の活動を大きく勢い付けられたのは大変運が良かったと思っています。

獅子図 岩絵具 雲肌麻紙 銀箔 91 x 91 cm 2013年
獅子図
岩絵具 雲肌麻紙 銀箔
91 x 91 cm
2013年

「寒山拾得ノ図」が近年の代表作であるとであるとお聞きしましたが、そう位置付ける理由を教えてください。

多くの作品を制作していく中で、自分にとっての区切りとなる作品がいくつかあります。この「寒山拾得ノ図」はその区切りとなる一枚と言えます。
この作品がきっかけで自身の制作スタンスの重要な気付きを得る事が出来ました。
この作品はある方のご依頼によって制作したのですが、依頼内容が寒山拾得という歴史上の人物の制作ご依頼だったので、その人物の史実をできるだけそのまま絵に反映する事を考え、特に自身の特性を絵に反映させる事は意識せず制作しました。しかし、完成した作品をご依頼頂いた方や他の近しい方に観て頂いた結果、多くから私ならではの寒山拾得だと評価を頂きました。
そこで気付かされたのは、意図しなくても描き手の個性はそこに表れるという事でした。
今まで、自身にしか描けない絵は?と苦悩していましたが、そんな事は意識する必要もなく、それは既に自身の中にある事で、それをそのまま絵にする事でいいいう実感を得る事が出来ました。
今回のインタビューにも応えてるように、情緒的感性に特化した制作スタンスから、作品の持つ意味性に注視したスタンスへの移行がある中で、次の段階に入る大きなきっかけになった作品です。

寒山拾得ノ図 松園墨 白麻紙 金箔 真鍮箔 38 x 45.5 cm 2016年
寒山拾得ノ図
松園墨 白麻紙 金箔 真鍮箔
38 x 45.5 cm
2016年

最後にアーティストとしての目線から見た卒展の作品を見ることの面白さを教えてください。

美術大学というのは作家になる人だけが来る所ではありません。様々な背景を持った学生が在学しています。他大学でも同様かもしれませんが、卒業後は美術関係の仕事だけではなく、それとは全く関係の無い職業に就く人も沢山います。
そんな様々な背景を持った人達が描いた作品だと思って1つ1つの作品を観ると、また見え方が変わって違った楽しみ方ができるのではないでしょうか。
私も卒業制作時は先程お答えした様に、様々な悩みがある中で当時出来得るベストの作品を制作しました。しかし、やはり今、自分の作品を観ると、表現が未熟だったり、クオリティの問題があったりと色々と目に付く所があります。
しかし、その未熟だからこそ、発展途上だからこそ描けるもあるのではと思っています。
絵にはその時点での制作者の全てが出ています。全てです。
ピカソは親友が自殺して「青の時代」といわれる暗い絵を描き、恋人ができると「ばら色の時代」と明るい色調の絵になったという話は有名な話です。
絵は作者の人生の鏡とも言えます。
卒業制作展で並ぶ作品もそれは同じで、様々な背景を背負い様々な事情を持ち制作された作品には、その一人一人の全てがあります。
展示された作品全てが素晴らしく心を打つものではないかもしれせん。中には意味のわからない作品もあるでしょう。
しかし、その作品が生み出された背景には必ず理由があります。そこに着目し作品鑑賞すると、また1つ違った印象で作品を感じる事ができるかもしれません。
「どのように?」「何を?」という視点だけではなく、「なぜ?」の視点を持ってご鑑賞頂けるとその理由には皆さんとの関連性も見えてきて、より作品にリアリティが持てると思います。

ぜひ、卒業生一人一人の作品と対峙して頂き、感じて、考えて、楽しんで頂けると幸いです。

今後の展覧会予定

・「新宿髙島屋美術画廊10周年企画展」/ 新宿高島屋 / 4.12~25
・「ニ人展」 /名古屋栄三越 / 4.19~25
・「個展」 /あべのハルカス / 4.19~25

プロフィール

1982年広島生まれ。広島市立大学芸術学部美術学科日本画専攻にて日本の伝統画法を学び、卒業制作を同大学の首席に当たる買い上げとなる。卒業後、日本で有数の美術雑誌主催の公募「美術新人賞デビュー2013」にて準グランプリを受賞。その後、国内外問わず発表の場を広げ、近年はNYのファッションブランドとのコラボや京都の伝統工芸の刺繍工房にも原画提供など多岐にわたる活動をみせる。円覚寺、広島市立大学芸術資料館に作品が収蔵されている。

WEBサイト

http://shinichiwakasa.tumblr.com/